SSブログ

ダーウィンの日記1832年10月8日から10日 [ダーウィンの日記(II)]

ダーウィンの日記(バイア・ブランカ)

[日記仮訳]

(1832年10月)8日

艦長はガウチョの兵士たちから大きなピューマつまり南アメリカライオンを購入していたのだが、今朝それが殺されて毛皮にされた[注]。この動物はパンパによくいて、私はその足跡を散歩の時に頻繁に見た。それは人を襲わないと言われている。でも彼等は明らかに十分強い。ガウチョたちがこれを捕えたのだが、まず[革の紐の付いた]球を投げて前足にもつれさせ、それから彼等は投げなわまたは輪なわを投じて、茂みの周りをウマで回りながら他の投げなわを使う事により、それは固く縛られ捕えられたのである。
[注]このことについては以下の注釈参照。

[注釈]
このピューマのことに関する状況はダーウィンの記述が簡潔すぎるので分かりにくいので、どういうことなのか以下にフィッツロイ艦長の書いたものから関連部分を引用しましょう..

"[ガウチョの]兵士たちは私たちの動きを監視するように配置されていたのだが、やがて緊張が解けて、彼らのすべての時間を私たちの為の動物狩りに費やすまでになった。さらにすでに述べられたこと以外に、彼等はある日立派な生きたピューマを持ってきたのだが、それは、私が多くの対価をそれに支払うことを期待し、またそれを生きたまま船に乗せると思い込んでいたのである。 しかしそのような厄介な仲間を私たちの混み合った船に乗せることは思いもよらないことだったので、私はその毛皮だけということで値切ったわけである。その兵士たちはその肉の栄養たっぷりな食事をし、そしてそれは美味しいがウマのほどではないと断言した。.."
FitzRoy, R. 1839. Narrative of the surveying voyages of His Majesty's Ships Adventure and Beagle between the years 1826 and 1836, describing their examination of the southern shores of South America, and the Beagle's circumnavigation of the globe. Proceedings of the second expedition, 1831-36, under the command of Captain Robert Fitz-Roy, R.N. London: Henry Colburn. p.107.

ダーウィンの日記の前月9月8日付けの記事には、ガウチョたちが生きたピューマ("a live lion")を持って来るということを予告していたことが明記してあります。これはビーグル号側(たとえばダーウィン)からの誘いかけであったのか、ガウチョ兵士たちからの自発的申し出であったのか、どちらかよくわかりません。この場合それでも"生きた"ライオンとわざわざ言っていたわけで、実際生け捕りのピューマを持って来たということです。ダーウィンは生きたタコを船の水槽に飼っていたりしてますし、私見による推測ですが、ピューマを生きたまま船に乗せられたらと願望を持っていたかもしれません。ダーウィンの意図が働いていたかどうかはともかく、少なくともこのへんにはなにか行き違いがあったように思われます。ダーウィンは不満げに日記に書き、フィッツロイ艦長は『航海記』にわざわざ長文で経緯を記しているというところ、やや奇異な感を覚える事を禁じ得ません。


[日記仮訳(続)]

朝食の後プンタ・アルタまで歩いて行った。以前化石を見つけたのと同じ場所だ。歯の付いているあごの骨を得た。これによって大型の洪積世以前の動物メガテリウムだということが分かった[注]。これはとりわけ興味深い、というのはこれの唯一の標本がマドリッドの王立のコレクションにあるだけで、そこでは科学の目的のためにはまるでほとんど太古の岩にあるかのように隠されているからである。
[注] 日記には、この箇所を含め、今後(化石)動物の名がいくつか書かれる箇所が出て来ますが、実際に何の動物の骨であるかは、後に英国に送られてから主にリチャード・オーウェンという比較解剖学に詳しい生物学者によって再検討されています。日記に書かれる動物の名は暫定的なものに過ぎません。しかしそれはともかく、後の年のバイア・ブランカ滞在の時の事になりますが、この付近とそしてさらに北方でダーウィンは実際のメガテリウムだけでなくその他トキソドン、ミロドンなどの古い大型動物の化石を発見しています。この日の化石は、ダーウィンが読んでいたキュヴィエによるメガテリウムの標本の記述が誤解を招くものであったために、実際にはメガテリウムの骨でなく、ホプロフォルス(同じく異節類)のものをダーウィンは前者だと思ったというもののようです。(R.D.Keynes の注釈による。)

私はまた大きなヘビを捕まえた。それが毒を持つ事をその時には知っていた。で、その毒の質はガラガラヘビのものと等しい事が分かっている。その構造はとても興味深い。それは普通の毒蛇とガラガラヘビの間の推移を示している。その尾は固い長円形の点で終わっていて、私が見ていると、それはより完全な器官をもつもののそれと同様に振動するのである。

9日
船に留まっていた。

10日
朝、強い風があった。岸には行かなかった。

[地図]地図の中心が化石を見つけつつあるプンタ・アルタ..

View Larger Map
(現在のプンタ・アルタでは、その後の建設工事のためにダーウィンが化石を見つけけた崖は見る事ができないとのことですが、東の方でまだ化石が見られるとの事です。)

[日記原文]
8th
The Captain had bought from the Gaucho soldiers a large Puma or South American lion, & this morning it was killed for its skin. — These animals are common in the Pampas, I have frequently seen their footsteps in my walks: it is said they will not attack a man; though they evidently are quite strong enough. — The Gauchos secured this one; by first throwing the balls & entangling its front legs, they then lassoed or noosed him, when by riding round a bush & throwing other lasso's, he was soon lashed firm and secure. —
After breakfast I walked to Punta Alta, the same place where I have before found fossils. — I obtained a jaw bone which contained a tooth: by this I found out that it belongs to the great ante-diluvial animal the Megatherium. This is particularly interesting as the only specimens in Europe are in the Kings collection at Madrid, where for all purposes of science they are nearly as much hidden as if in their primaeval rock. — I also caught a large snake, which at the time I knew to be venemous[sic]; but I find it equals in its poisonous qualities the Rattle snake. The In its structure it is very curious, & marks the passage between the common venemous & the rattle snakes. Its tail is terminated by a hard oval point, & which, I observe, it vibrates as those possessed with a more perfect organ are known to do. —

9th
Staid on board. —

10th
In the morning there was a fresh breeze, & I did not go on shore. —

image.jpeg
(メガテリウムの骨格)

["ダーウィンの日記(II)"について]
ここで扱っているのはダーウィンがビーグル号で航海に出ている時期の日記の1832年9月15日以降の記事です。訳文は私的な研究目的に供するだけの仮のものです。普通は全文を訳します。
[日記原典] "Charles Darwin's Beagle Diary" ed. by R.D.Keynes, Cambridge U.P., 1988.

タグ:化石発掘
nice!(16)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 16

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。