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ダーウィンの日記1834年2月6日 [ダーウィンの日記(II)]

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ダーウィンの日記(マゼラン海峡; ターン山に登る)

[日記仮訳]

(1834年2月)6日

朝4時にターン山に登るために船を出た[注]
[注] この日、薄明の始まりが3時57分で、日の出時刻が4時38分。

この山は海抜2600フィート[792.5m]あり、この近傍では一番高い。始めの2時間、私は頂上にたどり着く事をまったく期待していなかった。常にコンパスを見なければならなかった。ほとんど空を見る事が出来ず、その他案内として役立つ目標を見ることができなかった。

深い峡谷における荒れ地の死のような情景は筆舌に尽くしがたい。疾風が吹いていたのだが[注]、風の息に最も高い樹木の葉はそよともしなかった[*注]。全てが水滴に濡れており、キノコ類さえいっぱいあるわけでもない。谷の底は通行出来ない。そこは大きな崩れかかっている木の幹によってあらゆる方向で遮られ邪魔されている。もしこのうちのひとつを橋に使おうとすると腐った木の中に膝まで食い込んで沈み込んでしまい進行は止められる。同様に太い木に寄りかかってみると朽ちた物体がほんのちょっとしたことで落下しそうになっているのが分かるのは驚愕する事である。
[注] 平地で風力6。下の天候欄参照。
[*注] 風のあたらない谷間にいる。


私はついに矮化した木々の中を進みやがて裸地となっている稜線にたどり着いた。それは頂上まで続いていた。ここに真のティエラ・デル・フエゴの眺望があった。丘の不規則な連鎖、まだら状の雪面、深い黄色っぽい緑の谷、いろいろな方向に広がる細長い海面といったものだ。だが大気は澄明ではなかった。実際強い風は突き刺すように冷たくて、それは他の条件が何があろうと多くの楽しさを妨げるだろう。運良くも私は頂上の近くの岩にいくつかの貝殻を見つけた[注]
[注] なお、参考までに、ダーウィンはその著書『南アメリカの地質』において、アンモナイトの化石をポート・ファミンのスレートにおいて見つけていることを記録しています。これがここの日記にあらわれたものかどうかは不明です。その標本自体はダーウィンが英国に帰着した後に失われています。

私たちの帰りは体重によって下生えを通り抜けることが出来てずっと容易だった。すべてのスリップや落下は正しい方向のものであるというわけだ。

[地図] ターン山(830m)..

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[画像(拡大出来ます)] ターン山(湾をはさんだ対岸から)
tarn03.jpg
C. マーテンスによる素描。1834年2月6日すなわちこの日記の日。

[参考画像1(拡大できます)] ターン山ふもとの海岸からマゼラン海峡越しに南方のサルミエント山..[注]
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出典: http://www.panoramio.com/photo/3948484
[注] 上掲のC.マーテンスのと樹木の特徴に共通性が見られます。

[参考画像2] ターン山の北方(南半球なので陽の当たる方)やや離れた所の峡谷のひとつ(おそらくダーウィンの登った斜面の反対側なので彼が体験したのとは様相が異なると思われます)..
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http://www.panoramio.com/photo/7271566

[天候]1834年2月6日正午の天候:
南南西の風、風力6、青空、雲、スコール、気温華氏52.5度(摂氏11.4度)、水温華氏49.5度(摂氏9.7度)。


[日記原文]
6th
I left the ship at four oclock in the morning to ascend Mount Tarn; this is the highest land in this neighbourhead being 2600 feet above the sea. For the two first hours I never expected to reach the summit. — It is necessary always to have recourse to the compass: it is barely possible to see the sky & every other landmark which might serve as a guide is totally shut out. — In the deep ravines the death-like scene of desolation exceeds all description. It was blowing a gale of wind, but not a breath stirred the leaves of the highest trees; everything was dripping with water; even the very Fungi could not flourish. — In the bottom of the valleys it is impossible to travel, they are barricaded & crossed in every direction by great mouldering trunks: when using one of these as a bridge, your course will often be arrested by sinking fairly into up to the middle knee in the rotten wood; in the same manner it is startling to rest against a thick tree & find a mass of decayed matter is ready to fall with the slightest blow. — I at last found myself amongst the stunted trees & soon reached the bare ridge which conducted me to the summit. — Here was a true Tierra del Fuego view; irregular chains of hills, mottled with patches of snow; deep yellowish-green valleys; & arms of the sea running in all directions; the atmosphere was not however clear, & indeed the strong wind was so piercingly cold, that it would prevent much enjoyment under any circumstances. — I had the good luck to find some shells in the rocks near the summit. — Our return was much easier as the weight of the body will force a passage through the underwood; & all the slips & falls are in the right direction. —

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["ダーウィンの日記(II)"について]
ここで扱っているのはダーウィンがビーグル号で航海に出ている時期の日記です。訳文は私的な研究目的に供するだけの仮のものです。普通は全文を訳します。
[日記原典] Charles Darwin's Beagle Diary ed. by R.D.Keynes, Cambridge U.P., 1988.

ダーウィンの日記の1831年10月24日から1832年9月14日までの分はアーカイヴ的に"ダーウィンの日記(I)"として何日分かずつまとめて次のところにあります..
http://saltyfumi.blog.so-net.ne.jp/ (トップページ;すなわち1832年9月14日分)
http://saltyfumi.blog.so-net.ne.jp/1831--12-16_0 (日記の冒頭部;前書き)

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アヨアン・イゴカー

>深い峡谷における荒れ地の死のような情景は筆舌に尽くしがたい。
どのような光景であったか、見てみたいですね。
by アヨアン・イゴカー (2009-02-11 10:32) 

さとふみ

湿った倒木ないしは枯木の錯綜する所なのでしょうが、それにしても、若いダーウィンの行動力は瞠目すべきものがあります。
この時期はまだ19世紀後半(ましてや現在)と異なり、山に登る行為は全く一般的ではなく、かなり特異な関心を持った人の行動でした。
by さとふみ (2009-02-11 10:42) 

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